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2012年10月28日

3題(5)

奈良国立博物館
正倉院展
 いわずもがなに、当たり前にスゴい展示なので、ウチごときがレコメンドする必要もないのだが。。。
 中吊りやポスターにあるように18年ぶりに瑠璃杯(青いワイングラス)が目玉展示になるのか? 間近で見るためには数十分ならぶ必要がある。個人的には青ガラスもさることながら、受座と名付けられた当初の杯の脚に注目したい。解説では7世紀につくられ受座は東アジアで接合されたという説を紹介しているが、やはり5世紀末〜6世紀初頭に白瑠璃碗と同様に西域で作られたものが、時期を経ずにダイレクトに伝来しているのではないだろうか? と考えたい。
 パルメットというかパーム状の意匠は現在でもドバイのような日本から見た〈西域〉で使われている。
 あとは双六盤などの遊興具が特集されている。ガラスや玉を使用した双六石は小さい物ながら風格を兼ね備えている。サイコロと双六筒も興味深い(どうしても平清盛と後白河院の競争をイメーヂしてしまうのだが・・・)
 東館の後半が双六、西館の1室が瑠璃杯、西館の後半部分(北側)は例年通り、正倉院文書と聖語蔵の展示だが、関連して書見台や献物箱、球状の香炉など、例年より文書や経巻が少ない感じがした。
「称徳天皇勅願経」は、いわゆる「中聖武」というのか、奈良時代のカッチリした書体に太めの筆致と、まさに達筆で経文の意味とは関係なしに、古筆的な鑑賞には、うってつけのもの。
 行政文書としては、なんと言っても目玉は美濃国の戸籍。こっちは古文書が読めないと、いかんともしがたい。だが、多くの人が食い入るように見つめ、解読しているようだった。
 正倉院文書の類には、いくらか釈文のキャプションがついているので、時間と体力に合わせて、少しでもチャレンジしてみることをオススメしたい。釈文があれば意外に読めたりするもの。
 いかん、西館の南側が後になってしまった! 二彩の瓶は、たぶん大きい部類に入るんだと思う。なかなか、このサイズの瓶は、どんな窯業の生産地でもなかなか見れないのでは?(水甕なんかは、もっと大きい物があるんだけど・・・)
 ガラス類が壮観! どうなんだろう? 飛鳥池のような遺跡で天武朝に大量生産された物が伝世しているのか? 天平時代にも使うぶんだけが生産されているのか? 原料か? とされる破片もあるので、いろいろ検討しないといけないな。
 ガラスのモノサシ・ストラップは超カワイい。これはグッズになるよね。と思ったが、下で見てみると、見落としたのかもしれないが、なかった気が、、、
(名称は、あえて正倉院っぽい正式名称は避けて、イメーヂしやすい(図録にも、そういう系の表記があり)名称に、ほぼしてます)

葛城市歴史博物館
特別展
忍海と葛城
−渡来人の歩んだ道−
 大谷古墳の杏葉って、ホントに5世紀後半なの? 個人的には、ぱっと見、6世紀の第4四半期くらいみたいに見えるんだけど、埋葬施設と齟齬があるのかな? 馬冑にしても、騎馬文化が流入して半世紀くらいの時期に存在するものなのだろうか?
 大谷古墳の遺物と初期須恵器を並べられると、もう、思考停止で芝塚2号墳の馬具が5世紀の中頃のものなのでは?
 芝塚と大谷古墳を比べると、もう似て非なるモノで材質も芝塚では鏡板や杏葉のような強度の必要のないところまで鉄のような腐食性の高い材質で、大谷古墳はハミのような強度の必要なところは鉄材だが、鏡板や杏葉に腐食の痕跡がない。これは保存処理上の時代差による戦略の違いだけに起因するのだろうか?
 まあ、形式差は時期幅や前後関係を示さないので、芝塚のような馬具も大谷古墳のような杏葉・鏡板も共存していたといわれれば、それまでだが、個人的に、そこのところが消化不良で、ストーリーに入っていけなかった。
 まあ、葛城はじめてなので、そのことでストーリーが入らなかっただけなのかもしれないけど。

祖父江町郷土資料館
企画展
「尾張の書画家たち」展
 美人図なんか県立博物館で展示されててもおかしくないような作品。
 個人的には祖父江町郷土資料館の企画展としては必ずしもふさわしくない展示内容だと思う。個人的にはハコにはハコごとの向き不向きがあって、こういう展示は荻須美術館の特別展示室で十分なのではないだろうか?
 現在は複製技術も進歩して、というかカラーコピーでも(作品には相当な負担になるのだが)発色の色味だけ合わせれば十分に鑑賞に堪えうるのでは?
 釈文やキャプション、図録を充実させ、そのようなモノを展示した方が、祖父江町郷土資料館のハコの性質に合っている気がする。目録がペラ1で、図録(解説書)なしなのは残念。
 レコメンドしようにも、それを躊躇させるような因子のはたらく展示は個人的に好きではない。

奈良国立博物館
特別展 第64回
正倉院展
2012.1027〜1112
http://www.yomiuri.co.jp/shosoin/
http://m.yomiuri.co.jp/k/syousouin2010

葛城市歴史博物館
特別展
忍海と葛城
−渡来人の歩んだ道−
2012.0929〜1125

祖父江町郷土資料館
企画展
「尾張の書画家たち」展
2012.1027〜1104
午前9時~午後4時30分

2012年10月21日

3題(4)

名古屋市博物館
開館35周年記念
芭蕉−広がる世界、深まる心−
 やはり、古文書が読めるかどうかがカギになるのでは?(まあ、より深く楽しめるという程度か?)必ずしも読みやすい、くずし字とは言いにくい感じ。
 音声ガイドが、総時間、約40分と長大で、ある意味、金字塔! 展示のストーリーが、ほぼすべて網羅されている感じ。個人的には、俳句や和歌など作品の朗読を、もう少し増やして、説明を、もう少し簡潔にできないものかとも思うが・・・
 展示についても、芭蕉の生涯と〈芭蕉像〉の再生産という壮大なものになっているが、生涯については逆に名古屋や東海地域に於ける発句に重点をしぼって、歌枕の地誌的な解説や遺跡の遺物などで、芭蕉の生きた時代を立体的に展示できなかったのだろうか?
 普段の名古屋市博物館の展示と比べて異色というか、お宝的な目玉展示をポンポンポンと配置して概説的なストーリー構成は、必ずしも学芸活動が成功しているとは言いがたいと思われてしまうのは残念。
 まあ、西行・宗祇などの芭蕉前史、芭蕉の生涯、〈芭蕉像〉の展開なので、俳句・短歌、好きにはいい展示なのかな? ちょっと鑑賞者を選ぶよね。。。

名古屋市博物館 常設展示
森川コレクション
重要文化財「黒楽茶碗銘 時雨」や「稲之図」など、
 如春庵時代(昭和期)の作品が中心な雰囲気。
 茶入が3点、桃山〜江戸時代のものが。

愛知県美術館(栄)
コレクション企画
美しき日本の自然
朝日遺跡出土品 重要文化財指定 記念
「弥生時代の造形」
 まあ、特別展前のコレクションの企画展なので、そういう位置づけで見にいかないといけない感じか。
 今回は愛知県陶磁資料館の作品を一緒に展示する企画。渥美の芦鷺文壺が来ていた。モリカズが4点。
 常設展示内にゴーギャンの裏表。まあ、時代的な筆致というのもあるのかもしれないが、いい意味で、ゴッホのバッタモンのような作品。ゴッホが時代と、全く無関係で誕生したのではなく、1種、ゴッホに対するゴーギャンの嫉妬も感じられて、ああいう嫉妬の仕方をするとタヒチに行かざるを得ないという、ポスト印象派の、1番有名なドラマチックな部分が、ドロッとキャンバスからあふれてくるという、垂ぜんの作品。
 朝日遺跡の展示は第7室のみの残念な展示。黒色系というか沈線文系?(大地式土器)が1点と、丸窓、パレス。あと巴形と破鏡などの一級品がずらっと。と、まあ貝殻山貝塚資料館の展示のプレ展示なのか、陶磁資料館の展示とともに消化不良な感じ。
 どうせコレクション展の期間なのだから、特別展示室を使って「朝日遺跡資料による『様式と編年』」的な一括資料を総鑑できるような展示を、現代アートと対峙するトラディショナルなアート作品としてトリエンナーレ関連で展示して欲しい。こんなものを期待していくのだから、たちが悪いW

徳川美術館・名古屋市蓬左文庫
徳川将軍の御成
 去年、震災の関連(だったか?)で、展示が、あちこちした時に延期になっていた展示。
 御成とは、将軍などの天下人が臣下の屋敷を訪れること。
〈御成〉という行為・作法を屋敷の間取り図(蓬左文庫)や茶道具や調度品(徳川美術館)を駆使して立ちあらわせる展示。
 どうしても『へうげもの』的な高揚感が下火になって茶道具に対して、いまいち、むくっと来ない感じがしてダメだな。(個人的なモチベーションの問題なのだが・・・)
 名物・大名物のオンパレードで、泪の茶杓や千鳥の香炉などが、これ見よがしに展示されているので、垂ぜんの展示。

名古屋市博物館
開館35周年記念
特別展
芭蕉−広がる世界、深まる心−
2012.0929〜1111
http://event.chunichi.co.jp/bashou/

名古屋市博物館 常設展示
フリールーム テーマ10
森川コレクション
重要文化財「黒楽茶碗銘 時雨」や「稲之図」など、
2012.1010〜1118

愛知県美術館(栄)
コレクション企画
美しき日本の自然
朝日遺跡出土品 重要文化財指定 記念
「弥生時代の造形」
2012.0928〜1125

徳川美術館・名古屋市蓬左文庫
新館開館25周年・徳川園開園80周年記念 秋季特別展
徳川将軍の御成
2012.1006〜1111

2012年10月20日

芭蕉展@名市博

秋にこそ 俳句の奥義 桜山

2012年10月15日

近代美術館2題(3)

京都国立近代美術館
高橋由一展
 高橋由一というとピンと来ない人もいるのかもしれないが、美術の教科書の鮭の絵の人というと、大体の人が知っているのではないだろうか?
 幕末〜近代の洋画家というか、美術史的な立ち位置を説明しようとすると、いささか難しい。(音声ガイドが、解りやすく詳しい説明がされている。あと入り口の人物相関関係、由一自身にも政治的、経済的に野心的な活動をしていたこともあるのか、当時の各界の名士がポンポンと出てくる)
 近代の画家の回顧展というと美術史的な関心のある人が見るべきものと考える向きもあるかもしれないが、『美の巨人たち』で多くの作品が紹介されているし、キャプションや音声ガイドで十分説明されているので予備知識なしで、ふいっと入っても十分楽しめるのではないだろうか?
 まあ、説明以上に、作品そのものが、由一の実験と着眼性によって完成されているのが、すばらしい。
 絵はがきになっていない(?完売したのか?)ので、それほど人気ではないかもしれないが、個人的には「不忍池」が好き。(あれもこれもあげて説明しても展示の説明にならないので割愛)
 グッズが充実しているので、それもライトファンには嬉しいところ。由一が苦心して2Dに落とした鮭を、わざわざ3Dにしてるの。
 4階の常設展に田村宗立の回顧展、中央の前半1室だけの、こぢんまりしたものだが、由一とも関連して楽しめる。あと片岡球子の「面構シリーズ」が2点。稲垣仲静の「太夫」は明らかに由一に対するオマージュだよね。芹沢銈介の「法然上人御影」が個人的には好き。絵はがきにして飾っておきたい感じ。
「太夫」と「法然上人御影」の絵はがきが1階のショップにないのは残念のかぎり。

滋賀県立近代美術館
石山寺縁起絵巻の全貌
~重要文化財七巻一挙大公開~
 全巻展示の前期展は終了して、これからは前半部分、後半部分の巻き替えがおこなわれる。江戸時代の写本を、この期間に交互に展示。
 後期の全巻展示は11月13日から。
『源氏物語』とか紫式部の話になるとマスメディアで取り上げられて、一部研究者から「また?」的な疑義があげられるので有名な?(って展示のレコメンドになってるのか?)石山寺縁起。
『石山寺縁起絵巻』は全7巻の絵巻だが、1〜3巻がまとめてつくられた以外は、各巻が5巻、4巻、6〜7巻と順番につくられている。かといって時代時代に詞書きが創作されたかと言えば、1〜3巻の時期に詞書きが先に、まとめられて、その詞書き(詞書きの清書は時代時代につくられている)によって筋書きがなされている。
 絵巻物なので、比較的読みやすい、くずし字で書かれていて、キャプションに(読みやすいように現代的な、かな交じり文に直されているが)翻刻がなされている。
 つかれない程度に、つまみながら読んでいくと、読み進めていくウチに、だんだん目が慣れてくるのが解る。
 某インターネットサイトで、くずし字の巻物の展示風景を撮影していたのがだ、絵の部分をゆっくり撮影して、詞書きの所を、すっ飛ばして、次の絵の所に飛ぶのは閉口した。たとえ建前としても、詞書きが展示されていれば、詞書きを読むべきで、それは展覧会に割ける時間と体力、能力に応じて、ある程度を読んだり、読み飛ばしたりするのを否定しないが、あくまで、建前は読むべきものということを、ちゃんと示していかないとな。
 あと半月くらい先に『正倉院展』が始まるが、正倉院展の観覧者は、非常に、そのことを心得ていて、経典や行政文書のような、必ずしも読みやすくない古文書にも長蛇の列をなして天平時代の筆致や、時に光明皇后の真筆のようなものを、ありがたがって鑑賞している。
 いずれ、「古文書解読QS」もやりたいんだけどね。いかんせん自分が読めないから、なかなかすすまない(T_T)
 あと、石山寺一切経から悉曇(梵字)関係の資料が何点か来てた。美術の展示でも、とりあえず石山寺一切経からと言うのは琵琶湖文化館クオリティーなので、ちゃんとDNAが滋賀県立近代美術館(近代美術館なんだけどね。モダンアートについてもヒットやホームランを打てる美術館)にも流れているんだと嬉しくなる。
 仏像が3点、出ていたが個人的には、もう少し古ものなのかな? とも思う。胎内の如来像が新羅製、観音が飛鳥時代(ほぼ7世紀第2四半)、頭部の欠けたトルソーが7世紀の中頃なのかな?(たぶん、こんなに古く見るのは僕だけなんだろうけど・・・)

京都国立近代美術館
読売新聞大阪発刊100周年記念
高橋由一展
2012.0907〜1021
http://yuichi2012.jp/
http://www.nhk-p.co.jp/tenran/20111116_155017.html

滋賀県立近代美術館
石山寺縁起絵巻の全貌
~重要文化財七巻一挙大公開~
2012.1006〜1125

2012年10月08日

名古屋ボストン美術館(2)

名古屋ボストン美術館(金山)
ボストン美術館 日本美術の至宝
 後期展。
 主要な作品は残りつつも感覚的には全展示替えに近い。若冲のオウムは間近で見れて、裏彩色の様子まで見れた。

名古屋ボストン美術館(金山)
ボストン美術館 日本美術の至宝
2012.0623〜0917(前期)
2012.0929〜1209(後期)
http://www.boston-nippon.jp/

2012年10月02日

【EotY】2012年第3四半ベスト3(1)

【ベスト3】

高浜市やきものの里 かわら美術館
愛と正義と勇気をうたう
やなせたかしの世界展
 ユーモアと感動、人気と専門性を兼ね備えた希有な人格。
『アンパンマン』がなくても、やなせたかし氏だが、『アンパンマン』あっての、やなせたかし氏。
 総評も含め粒ぞろいなだけに、逆説的な首席。

愛知県陶磁資料館
戦国のあいち
−信長の見た城館・陶磁・世界−
 まあ愛知県の取り組みとして、入選。
 大規模発掘の成果と歴史地理的な整理手法の成果。
 ただ、岩倉城と国衙(岩倉城の南)の関係や、下津の下津城部分と下津宿遺跡、さらに南の国府などとの関係の説明が不足など、大枠での地域認識の問題に、いささかの疑問が残る。
 愛知埋文の到達点として次席。

岐阜県博物館
飛騨・美濃の信仰と造形
−古代・中世の遺産−
 他の展示より優位であるというより、下呂の森水無八幡の神像群にビビビっと来たことにより入選。
 ストーリーで見せる展示もあるが、モノをズバリ見せて完成させる展示、後者のひながた。


【総評:5件】(順番は鑑賞順)

京都国立博物館
古事記1300年
出雲大社大遷宮 大出雲展
 宇豆柱や鰹木は、やはり壮観。古事記から短絡的に出雲を選択したのは疑問だが、京都で見る出雲の文化財もよい。

奈良国立博物館
頼朝と重源
−東大寺再興を支えた鎌倉と奈良の絆−
 1点をあげれば、甲府善光寺の頼朝像。神像や建築史的にも興味深い作例なのでは?

安城市民ギャラリー展示室C
知りたい! 姫小川古墳
 個人的には、やっぱ姫小川古墳のような古墳は古墳とは言いたくない。「在来型墳丘墓」とか「続弥生的墳丘墓」とか「非畿内型古墳」というのが適切なのではないだろうか? 東之宮古墳や青塚古墳の1次埋葬まで在来型墳丘墓なのでは?
 外部施設としては葺石と畿内に準じた埴輪の使用に画期を求めたい。古墳時代のお墓だから「古墳」というのは事態を、ややこしくする。

PARAMITA museum パラミタミュージアム
南都大安寺と観音さま展
 観音菩薩にしぼって、彫刻史として作例が追っていける優れた展示。

岐阜市歴史博物館(岐阜公園)
共催特別展
織田信長と美濃・尾張
 古文書が読めるともっと楽しめる展示なんだろうな。
 茶道具や絵画資料も、それなりに楽しめるが、古文書が読めないともったいない。