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中世の引用

たとえば『伊勢物語』とか『源氏物語』とかに基づいていることがはやくから知られている曲についても、近年は、それが当時どのように理解されていて、謡曲にどのように反映しているかを、古注釈書ほか広く中世資料を見わたして考えるようになってきている。しかも謡曲に反映している素材世界は、これら古典に限られるわけではなく、文芸・非文芸が一体となっている中世文化のあらゆる領域に広がっていて、一曲の構想に関わる本説から、一句の修辞・文飾に到るまでに及んでいる。このことは必ずしも謡曲に限ったことではなく、いわば中世文学史の基盤とでも言ってもよいのだが、、、

伊藤正義氏「解説 謡曲の展望のために」『謡曲集(上)』 新潮日本古典集成 p364
 一つの本説が註釈や本歌取りのようなカタチで享受・再生産されてゆく。
 その多様な引用が、さらに大きな知的体系を作り上げてゆく。
 その中に広がってゆく曖昧さ、不正確さ、、、