2004年06月21日

要旨(アブストラクト)

 蓮池宏一氏・山田卓三氏 「実験・観察のページ216 ホウネンエビを使った実験−周年培養を中心にして −生徒に探究させる実験と観察(6)−」『生物の科学 遺伝 49巻5月号』 1995年 裳華堂
(以下、報文と略す)の要旨をまとめておきます。

 この雑誌は『遺伝』と略称されることが多く図書館などでは『遺伝』として登録されていることが多い。編集は遺伝学普及会。超マニアックな雑誌という訳ではないようである。(そう言う雑誌は、英語版が多いので日本語版というのはうれしい)

 この報文は、以下の章からなる。
 はじめに
1.周年培養の方法
 1)培養のための餌の検索と培養
 2)採卵の方法
 3)卵のふ化の方法を野外や水槽での観察結果から推測する
 4)ふ化の方法
  推論・仮説1:ふ化最適温度は15℃から30℃の間にある。
  実験1:ふ化の最適温度
  結果:ふ化の最適温度は25℃で、それより低くても高くても抑制されることがわかった。
  ○光がふ化に及ぼす影響について
  推論・仮説2:光がふ化を促進する。
  実験2:ふ化に対する光の効果の確認実験
  ○湿潤ふ化卵と乾燥ふ化卵が存在する
 5)卵の保存方法
2.考察
おわりに

 まず、「はじめに」ではホウネンエビをあつかう有用性について、小学生・中学生にたいする「身近な教材生物」と指摘する。つぎにホウネンエビの分類学上の概説を行った後、生活誌的な説明を行う。(この辺の詳細はのちのち改めて・・・)
 報文のタイトルに「周年培養」とあるように、小・中学生の教材生物とするために安定的な生体の確保、あるいはふ化する卵の確保が必要となってくる。「1.周年培養の方法」として詳細に検討されている。
「周年培養には培養のための(a)餌(えさ)、(b)採卵の方法、(c)卵のふ化方法、(d)卵の保存方法等を明らかにする必要がある」ことを指摘する。(アルファベットは報文にない)
(a)餌についてはスピルリナ、ミクロキスティス、Ankistrodesmus brauniiA. brauniiと略す)等を試みたとし、A. brauniiが最良であるとして、その培養方法について細説する。
「3)卵のふ化の方法を野外や水槽での観察結果から推測する」は、僕が「きっかけ」と呼ぶ部分。ふ化に関する因子の考察である。「結果、ふ化には卵の状態(乾燥卵、湿潤卵)と温度と光が影響していることがわかった」とする。「4)ふ化の方法」では、それぞれの条件について実験を行っている。
(d)卵の保存方法については、水中で光を遮断した状態で冷蔵庫(6〜8℃)に保存する「水中保存」と室温で乾燥卵を保存する「乾燥保存」の二つの方法を試している。それぞれ、一長一短あるようだが、重要なのは「水中保存卵は2年以上たってもふ化するが、乾燥卵は1年前後でほとんどふ化しなくなった。この欠点をある程度補うには、乾燥卵の容器を冷凍庫に入れて保存すると、1年後にも比較的高率でふ化する」と指摘している。
 以上のような検討により、「餌にA. brauniiを使い、白熱電球の連続照明下で飼育採卵することによって四季を通じてふ化する卵を得ることができ、水温を25℃付近に保てば常に産卵をさせることができたことから周年培養が可能になった。また光を遮断した状態で卵を水中冷蔵庫保存することで1年以上ふ化可能な状態で保つことができたことから、卵を実験材料として使用する道が開けた」としている。
 まとめとして「なお、ホウネンエビを含む無甲目のふ化の問題は、環境要因と生理学上の要因が相互に影響し合い複合したものと考えられるが、その仕組みについてはまだまだ未知の部分が多い」と締めくくっている。とりあえず以上で。

『地域思想史のレビュー』p152より