天狗
天狗は日本の民間信仰ないし民話の産物で、古くから文献に散見するが、この十四世紀にはずいぶん流行し、『天狗草紙』『是害房絵詞』などの絵巻物もつくられたし、『太平記』にも天狗の話がよく出るのである。当時の天狗は、今日の赤ら顔で高い鼻、やつでの葉のうちわをもった天狗ではなく、羽の生えたトビが山伏の姿をしたかっこうで、高慢で悪心をいだき魔力でもって世を乱そうと執念をもやし、人の目にみえぬように出没していると考えられていた。……要するにそれは高慢・我執が昂じた悪魔である。ところが天狗が、不適・不思議・奇怪なやり方で世を騒がせひっくり返すについて、それは世のなかがおかしくなっていることにそもそもの問題があると、多少「世直し」待望の気分を伴い、また漂逸で軽妙また痛快で、どこかおどけたところもあった。
『王法と仏法』p172
引用がいささか長いが中世の天狗についての一文。