« 榊莫山展 | メイン | 2題 »

3題

奈良国立博物館
解脱上人貞慶
−鎌倉仏教の本流−
 新館東館と新館西館の1室を使った展示。観覧券で西館となら仏像館の常設展示も見られるので、ある意味、お得感がある。
 この特別展は、是非、音声ガイドを借りて欲しい。なぜなら、貞慶という人は、多くの法会の式次第である『〇〇講式』と呼ばれるような著述を残していて、その願文は、一種の迫力のある文章。展示の都合で願文を全て展示することもできないし、短い時間に原文で、それを読解するのは特殊な能力が必要になる。
 それが音声ガイドでは歯切れのよいテンポある現代語訳で楽しめるようになっている。音声ガイドと展示のコラボレーションとして、1つの到達点にあると思う。
 貞慶を一言で説明するのは難しい。一番カンタンに説明してしまえば『大河ドラマ 清盛』で阿部サダヲさんが演じる信西の孫というと、一番近しいのではないだろうか?
 業績からいえば、大河の次の時代くらいに興福寺を中心に南都の復興に尽力した人。ある程度、復興が終わると南山城の笠置寺や海住山寺に隠棲してしまう、隠棲後も著述活動をしているんぢゃないのか?
 貞慶没後には、その隠棲の姿からか自戒の僧の集合名詞として活躍する。最もポピュラーなのは『太平記』・謡曲『第六天』の中で〈魔〉と対峙して調伏をはたす姿は一種のファンタジーとして貞慶の超人性を語る説話が創造される。まあ、今回は展示としてはない部分なんだけど。。。
 展示内容は要約するより展示そのものや『図録』で確認して欲しい。
 当然、仏像は慶派、快慶、快慶一派と、この時代の一流の作家の手によるもの海住山寺の四天王像は小像ながら、仏像をつくる方針となる儀軌(ぎき)的にも、重源の復興した復興大仏殿に作られた四天王と共通するとされる。(ここの音声ガイドがいささかややこしい。形式差による順序より南都で共通の儀軌が採用され、それが『興福寺奏状』などの確執があっても保持されたことを強調するべきなのでは?)
 貞慶という人物自体に少し地味さを感じる向きもあるかもしれないが、展示方針、展示内容ともに当代一流のキュレーション。これからも規模は関係なくこういう学芸活動をおこなえる場を提供することは博物館の展示水準を維持するために必要なのではないだろうか?
 そうそう、なら仏像館の図録がマイナーチェンジしてた。行快の降三世明王の図録化は価値があるが、マイナーチェンジのたびに買い換える経済的余裕が僕にはない。個人的には、なら仏像館の図録は館蔵品と小牧・正眼寺の誕生仏など常時、鑑賞できる仏像を中心にして、期間で変わる仏像は割高でも四つ折りのA4(博物館だよりのような体裁)とかのリーフレットや極個人的には絵はがきで構わないと思う。あとは動線の問題だよね。新館見てショップよってなら仏像館へ行って感動して、引き返して図録買うのはマイナーといわざるを得ないのではないだろうか? なんか、いい方法があればね。

奈良県立美術館
光と影のファンタジー
藤城清治 影絵展
 最近でいえば太田光さんの『マボロシの鳥』を絵本にしたことで、さらに注目を集めるようになったのではないだろうか?
『マボロシの鳥』は読んだことがないが、影絵のあの男の表情と、太田さんのトリッキーなテレビでの表情があいまって、すぐれた作品であることは判断できる。
 本当に前知識なしで、影絵が美しいと言うこと以上に、ストリーが立ち現れて、我々を感動させてくれる。
 キャプションも紙芝居の裏のように番号とカンタンな説明が示されていて、見る側に便利になっている。
 ああ、そうそう、この奈良県立美術館と奈良国立博物館、入江泰吉記念奈良市写真美術館の3館は、いずれかの半券を見せることで団体割引がきく。
 写真美術館は新薬師寺のそばで1度は訪れておきたい美術館、奈良国立博物館もなら仏像館など常設展示だけの観覧も可能なので、鑑賞計画を検討の余地アリ。

天理大学附属 天理参考館
大布留遺跡展−物部氏の拠点集落を掘る−
 個人的には物部氏って尾張氏の部曲なんぢゃないかと思う。だから、石上神宮への奉斎がいつから始まるか? とか、5世紀の布留遺跡の造営主体が誰なのか? とか、今の時点では意味不明。
『記紀』に武内宿禰という人が出てくるんだけど、この人の実在は疑われている。丁度、神功皇后から応神天皇の時代の人なのか?
『先代旧事本紀』「天孫本紀」によると、この時代は建稲種とか尾綱根という尾張系の人物が活躍していたとされる。
 欽明天皇が尾張氏の活躍を抹殺したのか、太安万侶が記紀のアウトラインを正当化するために尾張氏の活躍を自重したのかはよく解らないけど、なんらかの作為があって、5世紀の尾張氏の活躍については隠されている可能性がある。
 5世紀の布留遺跡の造営主体は東大寺山古墳の被葬者の後裔と考えるのが適切なのではないだろうか? 和邇氏になるのか?

奈良国立博物館
御遠忌800年記念 特別展
解脱上人貞慶
−鎌倉仏教の本流−
2012.0407〜0527

奈良県立美術館
米寿記念 特別展
光と影のファンタジー
藤城清治 影絵展
SEIJI FUJISHIRO EXHIBITION
2012.0407〜0624

天理大学附属 天理参考館
企画展
大布留遺跡展−物部氏の拠点集落を掘る−
2012.0404〜0611