【映像展示室】フューチャー・ビジョン
【イントロダクション】
博物館の要件というのは展示品と、それを並べて陳列する、いわゆるキュレーションと呼ばれる編集行為だろう。
デジタルミュージアムでは、結局、展示品をデジタル化して現物ではないものを展示するしかないというジレンマがあるが、
逆に、現物がデジタルデータのものであれば、液晶絵画としてリアルな展示室に展示することも可能だが、図録のような媒体から考えれば、デジタルミュージアムとしての強みを生かせる展示行為がおこなえるのではないだろうか?
今回はYouTubeのデーターを利用して、大衆芸術(popカルチャー)としてのミュージック・クリップ(PVはプロモーションビデオの略だがビデオというとフイルム式のモノを想像しやすいしプロモーション(販売促進)以上にアート性を高く評価していい場合もあり「ミュージック・クリップ」で統一。商標とかぢゃないよね?)を取り上げてみたい。
まあ、好きとか印象に残ったミュージック・クリップのまとめ行為である。
【第1室】イコノグラフとモティーフ
ミュージック・クリップの中でイコノグラフ(図像性)やモティーフ(象徴事物)を多用するアーティストとして浜崎あゆみ氏が挙げられるだろう。(ちょっと映像監督を調べる能力がないので監督ソートではなくアーティスト・ソートで失礼します。)
浜崎あゆみ氏「Voyage」2002年『Rainbow』同年。
http://www.youtube.com/watch?v=R6VCCQnMH6o
長編ドラマ『月に沈む』と対をなす作品で行定勲氏の監督になるのではないだろうか?
サナトリウムで療養中の女性のもとに前世の因縁のある男が現れるというようなストーリーだったような。前世の姫君の名前がズバリ、モティーフになっていたりする。手に入れるには中古になるのか? 再販とか、なさそうだし。
浜崎あゆみ氏「No way to say」2003年『Memorial address』同年。
http://www.youtube.com/watch?v=PKw-ESc5GW8
サンタがティッシュ配りしてて、特別な絵柄のティッシュを特定の女の子にあげたいんだけど、、、といったストーリーだったような。公式にあげられている作品はトレーラー(予告編)というかティーザー(じらしのような心理的効果を意図した広告行為)というか、ショートバージョンなのでオチというか結末が思い出せないのだが、こういう全編を通して1つのストーリーの中で提示していく作品が多いのが浜崎氏の特徴。後で述べる宇多田ヒカル氏のストーリー性の欠如と好対照。
浜崎あゆみ氏「Rule」2009年『NEXT LEVEL』同年。
http://www.youtube.com/watch?v=OMBg1VA6xVE
関係ないけど、ギターのリフがカッコいいよね。
ストーリー性はないのだが、いわゆる浜崎氏の「一座」という表現が適当な作品。あっ、カギは浜崎氏の作品を通してのモティーフになっているんだな。
日本式の演出は日本の作品のリメイクの外国映画の主題歌だから、輸出を考えたのではないだろうか?
浜崎氏の映像美の頂点をなす作品(まあ、これからこれ以上の作品が出るかもしれないが・・・)だと、個人的には思う。
【第2室】ミュージック・クリップ藝術の完成
やはりデジタル時代にミュージック・クリップを芸術の域まで高めたのは紀里谷和明氏による尽力の賜物なのではないだろうか?(こんな言い方する学芸員もいないな)
ということで1室、使って宇多田ヒカル氏の作品群の解説である。
言わずもがなだが、紀里谷和明氏は宇多田ヒカル氏のもと旦那。紀里谷氏はツイッター上でPerfumeのプロモートに携わりたいなどの発言もおこなっている。
宇多田ヒカル氏「Can You Keep A Secret?」2001年『Distance』同年。映像は『UTADA HIKARU SINGLE CLIP COLLECTION Vol.2』同年。
http://www.youtube.com/watch?v=AwQuXbae3N4
紀里谷氏の関与以前の作品だが、先行作品として紀里谷氏の方向性も意識づけられる作品になったのではないだろうか?
近未来ものというか人工知能を備えたアンドロイドが〈母性〉的なモノを求めるというようなストーリー。ヒカル氏の作品にしては珍しく、ストーリー仕立てなのが注目されるだろう。後に紹介する「You Make Me Want To Be A Man」と〈構造〉的に双璧になっているのではないかと考えている。その辺は「You Make Me Want To Be A Man」のミュージック・クリップを参照の上。
宇多田ヒカル氏「traveling」2002年『UTADA HIKARU SINGLE CLIP COLLECTION+ Vol.3』同年。
楽曲は「traveling」2001年『Deep River』2002年
http://www.youtube.com/watch?v=Tfc8w6A-f9U
いわずもがななので別の作品を紹介してもいいのだが、〈宇多田ヒカル〉と言えば「travelingコスプレ」という定番を生み出すまでに大衆に認知された作品。
一部のファンの間では『メトロポリス』へのオマージュの強い作品なのではと指摘されており、以前「traveling」のコマ割にあわせたトレーラーが提示されたのだが、現在見つけられない。
他の『メトロポリス』のトレーラーを見る限り、現在、感覚的にSFとされる分野のメジアン的作品なのではとも考えられ、現時点で、その影響関係は留保する。
Utada氏「You Make Me Want To Be A Man」2005年『EXODUS』2004年
映像は「You Make Me Want To Be A Man」2004年
http://www.youtube.com/watch?v=ZvviETUQsIs
アルバム『エキソドス』発売後にシングルカットされた感覚になるのか?
以前はiTunesでミュージック・クリップをダウンロード出来たようだが、現在、日本のサイトではエントリーされていない。
キリスト教的な教養と宗教に対する寛容さがないと享受できない映像。
宇多田ヒカル(名義はUtada)氏の近未来的世界観の金字塔になるのではないだろうか? ロボット化、データー化された身体能力と再生産される身体性。「Can You Keep A Secret?」より明確に子供目線での〈母性〉との対峙が描かれているのでは?