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【映像展示室】フューチャー・ビジョン3

【第4室】新潮流
 浜崎氏、宇多田ヒカル氏の作品群が注目を集めたのはゼロ年代の事象で、紀里谷氏も現在は「映像作家」の肩書きは使わず「映画監督」としているようで、まあ時代の潮流が10年とかという単位で変化するわけではないのだが、10年代には新たな潮流も散見される。
 現在の時点で今後注目されるミュージック・クリップの芸術運動について概観していく。

 北乃きい氏「サクラサク」2010年『』2011年
http://www.youtube.com/watch?v=NIyJW5R4zco
 最初「HEART STATION2008年」で頭角を現したのではないだろうか? その後、浜崎氏の多くの作品の映像監督となり、今、映像関連の会社の社長になるのか? 武藤眞志氏の監督作品。武藤氏の作品の特徴はグリーンバックの多用。まさにデジタル世代の騎手。10年代を牽引していく作家である。また、普通の人では考えないような奇想天外な演出をおこなうことでもよく知られている。「HEART STATION」でもラストの演出には脱帽した。
 まあ、作品自体はフイルム映画時代からよく使われる手法だが、このような手法がグリーンバックなら、タイミングも演技も関係なく表現できるというような見本市的に展示。まあ、ただ、北乃きいちゃんが好きなのだ。

 Mizca氏「ダメよ♡」2010年『UFUFU』同年
http://www.youtube.com/watch?v=syPqrcBq-9w
 スマートフォン、タブレットPCの元年とも言うべき2010年の作品。
 まあ内容はないのだが、タブレットのタッチ操作を駆使して画面を展開していくだけの作品だが、テクノポップという音楽とタブレットという時代性、近未来感が2010年という年に調和していた作品。
 このような手法は多用されており浜崎氏の「Microphone」にも採用されている。ただ、ナゼかの西洋の演出でタブレット感の存在理由が希薄になっている。

 きゃりーぱみゅぱみゅ氏「PONPONPON(ミニアルバム収録曲)」『もしもし原宿』2011年『ぱみゅぱみゅレボリューション(初回限定盤)(映像収録版)』2012年
http://www.youtube.com/watch?v=yzC4hFK5P3g
 ファッションアイコンとしても評判の高いきゃりーぱみゅぱみゅ氏の「PONPONPON」。新潮流の中でも一線を画する作品になる可能性もある。
 popな色調の中に、一見グロテスクでしかない、骨やのっぺらぼう、目玉などが配置され、独特の世界観を呈している。まあエログロナンセンスというジャンルは以前から存在するのだが、それがミュージック・クリップとしてpopな世界観の中で表現されるのは新しいのではないだろうか?
 このミュージック・クリップの世界観的なファッションアイテムを、きゃりーぱみゅぱみゅ氏が実際に着用しているのも注目される事象であろう。


【第5室】ボカロ現象
 いわゆる初音ミクに代表される音声合成ソフト(商品のシリーズ名からボーカロイド、略してボカロとも通称される)の世界は音楽の享受のみならず生産面にも変化をもたらした。これまで享受者であることを余儀なくされていたエンドユーザーが比較的、低予算かつ低い音楽的素養でボカロを歌わせることができ、かねてからのネットのブロードバンド化による音楽・映像の共有が容易になり商業音楽と肩を並べてボカロが認知・享受されるようになってきている。(バカ丸出しだな)
 ネット上で公開されることから、オリジナルのコンテンツが曖昧になったり発表年の曖昧さも、ボカロの醍醐味なのかもしれない。管見、よく知られているのかどうかも、よく解らないが気になった作品を展示していく。
 ボカロは書誌がよく解らないので、リンク先の解説などでご確認下さい。

sm7902754 【PV完全版】 初音ミクの消失 DEAD END 【MotionGraphics】tw」2008年
http://www.youtube.com/watch?v=Lm0KtK2kbmI
 異本の多い作品。羅列される言語を具現化して、それが消失していく様で「初音ミクの消失」というタイトルの曲を具現化している。
 ボカロという非人間の歌唱という技術と、モダンアートに潜在する既存の形式を破壊するような表現というのがあいまって新鮮みがある。

【鏡音リン】炉心融解【オリジナル】- Meltdown」2009年
http://www.youtube.com/watch?v=hiY9Z3kYAus
 歌詞の世界観が、すごく好きなんだけど、その世界観を朦朧とした筆致が的確に表現している。ボカロのミュージック・クリップは技術的に考えれば当たり前だが、作詞・作曲者と映像監督が異なることが、ままあり、商業音楽が音楽と映像を共通の人格の中である程度、演出するのと大きく異なる。逆に言えば、作家の作品に対する帰属意識が、ある程度オープンであり、二次創作や、あるいは享受に対しても寛容な素地が前提的に存在する。ネットの技術として「オープン・ソース」というソフト(OSやアプリケーションソフト)の開発に関する技術的な部分を公開して関連のソフトの開発に資するシステムも、思想的背景としてボカロの発展に貢献しているのかもしれない。(ほんとバカ丸出し)

livetune feat. 初音ミク 『Tell Your World』Music Video」2012年
http://www.youtube.com/watch?v=PqJNc9KVIZE
 グーグル・クロムというブラウザソフトというかソフト形の検索システムというのかのCMに起用された楽曲。CMは下。
「Google Chrome: Hatsune Miku (初音ミク)」2011年
http://www.youtube.com/watch?v=MGt25mv4-2Q
 千変万化な初音ミクがステージ上で歌い、さまざまな色彩が流れ込む感覚。
 まだ、映像を表現行為として評価すると言うより、ボカロ現象の概説に終始してしまうが、今後、音楽面でもミュージック・クリップの面でも注目される。
 非商業的な、いわゆる「チラ裏(チラシの裏の略で表現がつたないこと、そのことを卑下していう)」的な表現行為が一躍脚光を浴びて、時代の表舞台に立つことも今後、考えられるのではないだろうか?

「【初音ミク】TARKUS/タルカス Orch.+Vocal版【NHK大河/平清盛/ELP/MIKU】」2012年
http://www.youtube.com/watch?v=kwCDWgWM2N4
 おまけ的に。大河ドラマで起用され賛否両論の話題になっている(らしい)。
 こういうパロディというか時代の潮流にあわせた表現行為もまた、ボカロ現象の一部となっている。

【まとめ】
 ネット上はいわば無限の展示室なので、数を多く上げること容易である。またYouTube上にはミュージシャンごとの公式チャンネルが限定的ではあるが存在し、個々のアーティストを概観することは比較的容易である。
 しかし、展示室の作品を数本にしぼって、例えばゼロ年代からの音楽に関する映像表現の概観というと、音楽雑誌がやるの? 芸術雑誌がやるの?
 音楽雑誌も芸術雑誌も取り上げそうで、音楽通はみんな知ってるんだけど、一般までには、必ずしも浸透していない。と言うような視点で作品を集め展示室を完成させた。
 まあでも、昼行灯的なのかな? もっとエッジを効かせてもよかったのかも???